暗号資産は今、「怪しい投機」から「社会インフラ」へと不可逆な転換点を迎えている。日本国内でもステーブルコインの法整備が世界に先駆けて進み、企業間決済やスマートコントラクトの実装が現実のものとなった。
さらに、AIエージェントが自律的に経済活動を行う時代が幕を開けようとしている今、私たちが直面する新たな脅威と「真のセルフカストディ」のあり方について、国内開発の本格的なクリプトウォレット・サイナー「Openloop」の開発責任者、浅田一憲氏に話を聞いた。
「2022年のFTX破綻以降、『秘密鍵を持つ者が、真の所有者である』という原則がかつてない重みを持っています。現在、USDC、USDTや日本円のJPYCなど、法定通貨と価格が連動するステーブルコインが普及期を迎え、ブロックチェーンは日常決済や企業取引を担う『インフラ』へと変貌を遂げつつあります。この動きは今後急速に進み、数年後にはあちこちで当たり前にステーブルコインを使う世界がやってきます。」
「ステーブルコインの登場以前は、暗号通貨とは値動きの激しい存在で、投機的な目的でそれらの取引をする人ばかりでした。しかし、世紀の大発明であるブロックチェーンは、信用という概念を刷新し、非中央集権的なシステムを実現する、誰にでも平等な技術です。本来投機とは何の関係もありません。ステーブルコインの登場で、暗号通貨の持つ投機的な側面と、ブロックチェーン技術で世界を安心・便利にする側面が分離されたのです。10年後でもUSDCは1ドル、JPYCは1円のままで値上がりも値下がりもしません。純粋に普段の支払いなどさまざまなブロックチェーンの使い方ができます。それは社会に浸透し、インフラに発展します」と浅田氏は語る。
「しかし、そのインフラへの入り口となるハードウェアウォレット市場は海外製品が独占しています。国内で開発している安心感や、日本語でのサポート体制などが圧倒的に不足しているため、使うのを躊躇している人も多い状態です。私たちは単なる『海外製の代替』ではなく、日本のWeb3インフラの基盤となり、企業の財務部門や行政機関が安心して導入できる国産のクリプトウォレットが必要だと強く確信したのです」
ウォレットにおける最大の脅威は、インターネットを経由した遠隔からのハッキングだ。PCやスマートフォン上のソフトウェアウォレットは、マルウェアやフィッシング詐欺のリスクに常に晒されている。企業間取引など巨額の決済が暗号通貨で行われるようになった際にはハードウェアウォレットは必携の存在だ。
「購入した暗号資産を取引所に預けておいて心配ではありませんか?その取引所が信頼できるかどうかはともかく、他人に資産を預けることにはリスクが伴います。では自分のPCやスマートフォンの中に暗号資産を入れておけば良いじゃないかと思うかもしれませんが、それらはインターネットに繋がっていますよね。ハッキングされない保証はありません。Openloopはインターネットには繋がらない。使う時だけケーブルで物理的にPCに繋ぐか、あらかじめペアリングを行ったスマートフォンだけと繋げて使えます。そして最終的な署名はOpenloopの画面で確認してから実行できます。Openloop画面の承諾ボタンを押さないと絶対に署名・送金はできません。USBやBLEさえ繋ぐのが怖い人のためには『Air Gap(エアギャップ)』方式をサポートしました。カメラとディスプレイでアニメーションQRコードの読み取り・表示だけで署名を完結させるモードです。さらに内部には金融グレードを超えるEAL6+セキュリティ認証を受けたセキュアエレメントNXP SE050を搭載。また独自に考案した『DualSecure Architecture』を採用し、メインCPUとセキュアエレメント内のセキュアメモリー間で鍵交換を行い、物理的な攻撃からも暗号シードを守れる機構が搭載されています」
「旅行したいと思い立ったとき、AIに頼めば飛行機やホテルの手配、施設の予約など全部やってくれる時代になりました。AIは決済もできますがクレジットカード番号も教えますか?旅行の手配に限らず、AIにソフトウェア上のアクセス権や決済権限を広く与えれば、プロンプトインジェクション等による意図しない消費や資産流出が容易に起きてしまいます」
「AIが自律的に提案する機能と、人間が『実行してよい』と許可する機能は明確に分離されるべきです。ここまでならAIが自分の判断でやっても良いが、ここからは私の承諾が必要という明確な線引きが必要です。画面上の『OK』ボタンを押したかどうかは両者の取り決めであり、守られるとは限りません。暗号学的に実行できない仕組みを入れることが重要です。AIがどれほど賢くなっても、資産を動かす最終決定は人間が物理的なデバイスで行う—それがOpenloopの設計思想です」
「Openloopをハードウェアウォレットと呼ぶのはもう古いかもしれません。これからはクリプトサイナーと呼ぶべきです。金融(DeFi)だけでなく、分散型自律組織(DAO)での投票や、契約の締結(スマートコントラクト)、非代替性トークン(NFT)の取引など、さまざまなブロックチェーン応用アプリケーションでOpenloopは活躍します。しっかりとした国内開発の技術をベースに、Openloopは、人間とAIをつなぐ『承認デバイス(サイナー)』へと進化していくのです」
私は1997年に株式会社オープンループという情報セキュリティ・暗号技術専門の会社を設立し、2001年に上場に導きました。今はその頃とは比較にならないほど巨大な市場が出現しつつあり、ますますこの分野の重要性が高まっています。 セキュリティ技術の専門家・開発者として、インターネットの黎明期から現場に立ち続けてきた経験を持つからこそ、理論だけでなく、実装や運用の現実を踏まえた判断を重視しています。
President & CEO
浅田 一憲
医学博士、メディアデザイン学博士。元上場企業社長。情報通信・暗号学・医学など幅広い分野に造詣が深い技術者であり、経営も行うシリアルアントレプレナー。個人で国内外の20数社のスタートアップに投資するエンジェル投資家でもある。ビジネス分野で活躍する傍、視覚色覚で困っている人向けの無料ヘルパーアプリを提供したり、海外に小学校を寄付するなどの社会奉仕活動を行っている。